この記事の要点(30秒で読めます)
- 宇宙船に見える形は、建物を持ち上げて「巨大な木陰」の広場をつくるための設計と伝えられています。
- 建築士としては、外壁の軽いFRPパネルと281基の免震装置、建物の下の日陰の広場に注目です。
- 床を見せる、角を丸くする、光を上から導く。住まいにも取り入れやすいヒントがあります。
初めてルーカス美術館の写真を見て、「これは宇宙船?」と思った方は多いのではないでしょうか。2026年9月22日、ロサンゼルスのエキスポジション・パークに開館したこの美術館は、白くなめらかな巨大な塊が空中に浮かんでいるように見えます。
ところが、設計者のマ・ヤンソンが目指したのは、宇宙船ではなく「雲」や「大木の木陰」のような存在だったと伝えられています。強い日差しのロサンゼルスで、人が集まれる日陰の広場をつくるために、建物を地面から持ち上げたという考え方です。
今日は建築士の目で、この建物の「形の理由」「構造と素材の工夫」「暮らしに持ち帰れるヒント」の3つを読み解いてみます。
ロサンゼルスに現れた、宇宙船のような美術館
ジョージ・ルーカスがつくったのは映画のテーマパークではない
名前から「スター・ウォーズの美術館」を想像する方もいるかもしれません。けれども正式名称は「Lucas Museum of Narrative Art」。ナラティブ・アートとは、物語を語る芸術のことです。絵画、イラストレーション、写真、映像など、人が物語を伝えるために描いてきたものを幅広く扱うという考え方で、映画関連はその一部です。
建築の記事ですので展示の話は最小限にしますが、「すべての展示がスター・ウォーズ」ではない、という点だけは押さえておくと、建物の見え方も変わってきます。
設計者マ・ヤンソンとMAD Architects
設計を担ったのは、北京を拠点とするMAD Architectsを率いるマ・ヤンソンです。公式発表では、美術館の建築はMA YANSONG(MAD)、実施面でのパートナーとしてStantecが紹介されています。
マ・ヤンソンは「山水都市」という考え方で知られています。山水とは、山と水が織りなす自然の風景のこと。都市の中にも自然の気配や、人の感情に響く場所をつくろうという発想です。今回の建物も、直線や直角を避けた有機的な曲線でできていて、その考え方がよく表れています。
建築基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | Exposition Park, Los Angeles, California(米国) |
| 開館日 | 2026年9月22日(公式発表) |
| 建築設計 | MAD Architects(マ・ヤンソン)、実施設計:Stantec |
| 構造設計 | LERA Consulting Structural Engineers |
| ランドスケープ設計 | Studio-MLA(ミア・レーラー) |
| 延床面積 | 約27,871㎡(約30万平方フィート)※建築専門メディア ArchEyes による |
| キャンパス・ランドスケープ | 約13エーカー(公式の説明。公園・庭園を含む新キャンパスの面積) |
| 外壁 | 曲面のFRPパネル 1,200枚以上(公式発表) |
| 総工費 | 約10億ドルと報じられていますが、公式の確定額ではありません |
13エーカーは、建物だけでなく公園・庭園を含めたキャンパス全体の数字です。資料によっては11エーカーと書かれていますが、測っている範囲が違う可能性があるため、ここでは公式の説明に従っています。
なぜ宇宙船の形?実は「巨大な木陰」だった
ここからが、この記事の中心です。

建築を地面から持ち上げる発想
この建物の最大の特徴は、巨大なボリュームが地面から持ち上げられていることです。中央には、スパン約185フィート(約56m)の鋼製のアーチがかかっていると、建築専門メディアが紹介しています。スパンとは、柱や支えのない部分の長さのこと。つまり、56mほどの幅が柱なしで確保された、ということです。
建物を浮かせると、足元に大きな空間が生まれます。そこが、雨の少ないロサンゼルスの屋外の広場として使えるわけです。風が抜け、光が落ち、人が街から公園へそのまま歩いて通り抜けられる。建築士としては、ここに「建物の下を人の通り道に使う」という、とても都市的な発想を感じます。
ロサンゼルスの日差しとパッシブデザイン
「大樹のキャノピー」という言い方を、少しやさしく説明しましょう。夏の公園で、大きな木の下に入ると、少し涼しくて、そこで休む人がいます。あの木陰を、建物でつくろうという考え方です。
建築では、機械の力に頼らず、日射や風などの自然条件を上手に使う設計を「パッシブデザイン」と呼びます。建物そのものが日よけになる、というのも、その一つです。ただし、この木陰がどれだけ気温を下げているかの実測値は、今回確認できた資料の中にはありません。ここは「そういう狙いの設計である」という範囲にとどめておきます。
なお、マ・ヤンソン本人が「雲」「木陰」と語ったという点は、調査資料で複数言及されていますが、今回私が原文を直接確認できたのは、建築専門メディアに載っている「建築は人と都市と自然をつなぐもの」という趣旨の発言まででした。本人発言の逐語は、公式資料での再確認をおすすめします。
美術館と街の境界をなくす
美術館と聞くと、入口を通らないと何も見られない場所を想像しがちです。ところがここは、公園や庭園、ショップ、カフェ、レストランは、美術館のチケットがなくても利用できると公式サイトに書かれています。研究図書館も来館者は無料で使えると案内されています。
建物の中に入らなくても、建築とランドスケープに触れられる。都市に住む私たちにとって、これは「街の居場所が増える」ことを意味します。
美しい曲線の裏にある、驚きの建築技術

1,200枚以上の異なる外壁パネル
外壁は、曲面のFRPパネル1,200枚以上で構成されていると、公式発表にあります。FRPとは、繊維強化プラスチックのこと。ガラスの細かい繊維で補強した樹脂で、軽いのに強いのが特徴です。ボートの船体や浴槽などにも使われています。
調査資料によれば、パネルの形は一枚ずつ異なり、発泡材の型をコンピューター制御の機械で削り出して成形し、ロボットで寸法を確認、仕上げの約半分は職人の手作業だったとされています。表面にはモントレー湾の岩のチップなどを混ぜたコーティングが使われ、石のような質感を出していると紹介されています。
なお、資料によっては1,270枚、1,500枚と数字が分かれています。数え方(予備や下層部の別素材を含むかどうか)が違う可能性があるため、この記事では公式の「1,200枚以上」を使います。
巨大建築を地震から守る免震構造
ロサンゼルスは地震の多い地域です。構造設計を担当したLERAの発表によると、この建物には281基の免震装置(ベースアイソレーター)が使われています。免震装置とは、建物と地面の間に入れる「揺れを建物に伝えにくくする装置」のこと。
建築専門メディアの紹介では、凹んだ鋼製のお椀と鋼の球を組み合わせた装置で、地震時には建物が最大約42インチ(約107cm)、地面に対して水平に動けるとされています。動いたあと、お椀の形状によってもとの位置へ戻る仕組みです。
建物がそれだけ動くので、周囲には幅8フィート(約2.4m)の隙間が設けられています。普段は広場の床の一部のように見えますが、実は「建物が動くための余白」だというのは、とても建築らしい話です。
外壁を軽くする理由
では、なぜ外壁に軽いFRPを使ったのか。調査資料では、当初は重いガラス繊維補強コンクリートが検討されたものの、免震装置の許容重量との関係でFRPへ変更された、と報告されています。ただし、この変更の経緯を私が一次資料で直接確認できたわけではありません。
一般論として、免震の建物は重くなりすぎると装置の負担が増えます。ですから、外壁を軽くするという判断は理にかなっています。「奇抜な曲面が先にあった」のではなく、「条件を満たす軽い素材だからこそ、この曲面が実現できた」とも読めるわけです。ここは建築士としての解釈ですので、事実とは分けて読んでください。
直線が少ない空間は、なぜ心地よく感じるのか

白い曲面が光を受け止める
写真で内部を見ると、壁と天井がなめらかにつながり、白い曲面が光を受け止めているのが分かります。直角の部屋は、角に影ができて、そこで視線が止まります。曲面は影が徐々に変わっていくので、視線が流れやすくなります。
曲面が人の気持ちを落ち着かせる、という話は昔からありますが、建物ごとの効果を示す実測データはここにはありません。「そう感じる人が多い、建築士の実感」として読んでください。
空を切り取る楕円形のオクルス
建物の中心には、オクルスと呼ばれる楕円形の開口があります。オクルスは、もともとローマのパンテオンなどで知られる、天井の丸い穴のこと。ここから空と光が入ります。
暗くなりやすい建物の中心部に自然光を導くだけでなく、見上げた先に空があると、巨大な建物の中でも方向が分かりやすくなります。写真を見るときは、光がどの壁に当たってどう回り込んでいるかに注目してみてください。
緑の風景と一体になる室内
内部は、窓から公園の緑が見える構成になっていると紹介されています。外壁の人工的な白と、木の質感のある内装、窓の外の緑。この対比が、空間の落ち着きをつくっています。
なお、美術品を守るために、展示室の中には直射日光を入れない配慮が必要です。光を入れる場所と、守る場所を分けるのも、美術館建築の大切な考え方です。
駐車場から公園へ。建築は街をどう変える?

13エーカーのキャンパスと緑地の再生
この敷地は、もとは広い平面の駐車場だったと言われています。いまは公園・庭園が整い、ランドスケープはStudio-MLAが設計しました。調査資料では、駐車場は地下に収められ、地上に340本以上の樹木が植えられたと紹介されています。樹木数や地下の台数は一次資料での再確認が必要な数字ですので、参考値として読んでください。
アスファルトは夏に熱を溜めやすく、木陰は気温の上昇を和らげます。一般論としては、舗装を減らして緑と土を増やすことは、ヒートアイランド対策や雨水の浸透に役立ちます。その規模での効果を示す実測値は、今のところ確認できていません。
地中熱と雨水の設備
建築専門メディアによると、敷地には深さ約365フィート(約111m)の井戸が714本あり、地中熱を建物の冷暖房に使っています。地中の温度は一年を通して安定しているため、そこを熱の出し入れ先にできるという仕組みです。
階段状の水景が雨水の処理にも関わっていると書く資料もありますが、用途や仕組みを一次資料で確認できていないので、ここでは「景観だけでなく環境設備としても考えられている可能性がある」という紹介にとどめます。
ルーカス美術館から学ぶ、心地よい住まいの5つのヒント

大規模な公共建築の構造を、そのまま住宅で再現することはできません。けれども、考え方の一部は、住まいにも持ち帰れます。
1. 家具を浮かせ、床を連続して見せる
美術館の工夫は、建物そのものを浮かせて足元を開けたことです。住宅では、脚の細いソファや壁付けの収納で床を見せると、床が続いて見え、部屋が広く感じられます。注意点は、壁付け家具は壁の補強や荷重の確認が要ること。取り付ける前に、下地の位置を必ず確かめてください。
2. 壁や天井の角に曲線を取り入れる
美術館では、壁と天井がなめらかにつながる曲面が空間の印象をつくっています。住宅では、廊下の角やニッチ(壁のくぼみ)の入隅を丸くするだけでも、光がやわらかく回ります。ただし、曲面の施工は手間がかかり、直線の施工よりコストが上がりやすいことは、先に知っておきたい点です。
3. 天窓や吹き抜けで光を導く
オクルスのように、上から光を落とすと、壁の窓が取れない場所も明るくなります。住宅では、階段室の上の天窓や吹き抜けが同じ働きをします。ただし、天窓は断熱と雨仕舞い(雨水を防ぐ納まり)の難しさがあり、夏の日射も強く入ります。設計者と相談して、位置や大きさ、ガラスの種類を決めましょう。
4. 入り巾木や影のディテールで壁を軽く見せる
調査資料では、展示室の白い壁の足元に暗い影のような処理があると紹介されています。住宅でも、壁の下端を少し奥へ引っ込めた「入り巾木」にすると、壁が浮いて見えます。汚れが溜まりにくい一方、納まりが細かいので、職人の技術に左右されます。
5. 庭の植栽や雨水の通り道を工夫する
敷地を緑で覆い、雨水を浸透させる考え方は、家庭でも小さく取り入れられます。たとえば、雨どいの出口に砂利の浅いくぼみ(レインガーデン)をつくる方法です。ただし、水が建物側へ流れないよう、敷地の傾斜や地盤の排水条件、隣地との境界を見たうえで計画してください。
ルーカス美術館を訪れるなら見たい建築ポイント

見たい場所のチェックリスト
見学するなら、次の順で見ると建築の理解が深まります。
- 外観:離れた位置から、建物がどのように浮いて見えるか
- 中央広場:足元の日陰と、風の通り方
- オクルス:開口から差す光の動き
- 外壁の質感:近づいたときの表面(石のような仕上げか)
- 曲面の壁:壁と天井のつながり
- 図書館:木の質感と窓の外の緑
- 庭園:木陰と建物との距離感
見学前に確認したい情報(2026年10月24日時点)
以下は公式サイトで確認できた内容です。変更される場合がありますので、必ず出発前に最新情報をご覧ください。
- 入館料:大人25ドル、65歳以上21ドル、17歳以下は無料(ただし予約が必要)
- 予約:会員や同伴の子どもを含め、全員が時間指定のチケットを事前に予約する形が案内されています
- 開館時間:月・水・木 10〜17時、金 10〜21時、土 9〜21時、日 9〜17時、火曜休館(最終入場は閉館の45分前)
- チケット不要:公園・庭園、ショップ、カフェ、Skywalker Grill。研究図書館は来館者全員が無料と案内
- 公園の開園時間:8時から日没まで
広場そのものが無料かどうかは、公式ページで明記を確認できませんでした。屋外の公園・庭園と一体の空間ですが、訪問前に公式の最新案内でご確認ください。
まとめ|不思議な形の奥にある、暮らしへのやさしさ

宇宙船のように見える建物は、日差し、地震、人の動き、自然環境という条件から生まれた建築でした。建物を持ち上げて木陰をつくり、軽い素材で免震に応え、駐車場を公園に変える。奇抜に見える形の一つひとつに、理由があります。
ここまでで、ウェスティンならここを見る、というポイントを3つにまとめます。
- 建物の下にできた日陰と、人の通り道
- 外壁の曲面と、継ぎ目の流れ方
- オクルスから入る光と、白い壁の陰影
建築の美しさと合理性は、決して対立していません。次に街で変わった形の建物を見かけたら、「この形には何の理由があるのだろう」と、少し足を止めてみてください。いつもの景色が、少し違って見えてくるはずです。
よくある質問
Q. ルーカス美術館はいつ開館した?
2026年9月22日に一般公開されました。公式の開館発表で確認できます。
Q. 設計者は誰?
建築設計はMAD Architectsのマ・ヤンソンです。実施設計はStantec、構造設計はLERA、ランドスケープはStudio-MLAが担当しました。
Q. スター・ウォーズのテーマパーク?
いいえ。物語を語る芸術(ナラティブ・アート)を幅広く扱う美術館で、すべての展示が映画関連というわけではありません。
Q. なぜ宇宙船のような形をしている?
見た目の印象から宇宙船に例えられますが、設計の狙いは、建物を持ち上げて日陰の広場をつくることにあったと紹介されています。
Q. 外壁は何でできている?
曲面のFRP(繊維強化プラスチック)パネル1,200枚以上です。形は一枚ずつ異なると伝えられています。
Q. 地震への備えはどうなっている?
構造設計のLERAによると、281基の免震装置が使われています。建築専門メディアの紹介では、地震時に建物が水平に最大約107cm動く設計です。
Q. 無料で見られるエリアはある?
公園・庭園、ショップ、カフェ、Skywalker Grillはチケット不要で、研究図書館は来館者全員が無料と案内されています。広場の扱いは公式の最新情報でご確認ください。
Q. チケットはいくら?
2026年10月24日時点で、大人25ドル、65歳以上21ドル、17歳以下は無料(予約が必要)です。変更される場合があります。
Q. 見学で注目したい場所は?
建物の下の日陰の広場、オクルス、外壁の質感、曲面の壁、図書館、庭園です。
Q. 日本の住まいづくりにも応用できる?
大規模な構造はそのまま再現できませんが、床を見せる、角を丸くする、光を導く、雨水を庭で受ける、といった考え方は、住まいにも取り入れられます。
参考・出典
- Lucas Museum of Narrative Art「Opens to the Public on September 22, 2026」
https://lucasmuseum.org/press/lucas-museum-of-narrative-art-opens-to-the-public-on-september-22-2026 - Lucas Museum of Narrative Art「Plan Your Visit」
https://lucasmuseum.org/plan-your-visit - LERA Consulting Structural Engineers「Lucas Museum of Narrative Art」
https://www.lera.com/single-post/lucas-museum-of-narrative-art - Stantec「Lucas Museum of Narrative Art」
https://www.stantec.com/en/projects/united-states-projects/l/lucas-museum-narrative-art - ArchEyes「Lucas Museum of Narrative Art by MAD Architects in Los Angeles」
https://archeyes.com/lucas-museum-of-narrative-art-by-mad-architects-in-los-angeles/
※本記事の情報は執筆時点(2026年10月24日)のものです。開館時間・料金・予約方法・休館日・工事等の最新情報は、必ず施設公式サイトでご確認ください。
※本記事の挿絵はイメージであり、実際の建物の形状・色・細部とは異なる場合があります。
